2011年3月7日月曜日

【コラム】 世論調査を「反イスラム論争」で焚きつけ サルコジとル・ペン同一視の「危険な遊び」

3月6日、仏大統領選挙各党候補者も揃わない14ヶ月も前にパリジャン紙は第一回投票予測を発表した。極右政党、国民戦線(FN)フロンナショナルマリーンヌ・ル・ペン党首が25%でトップになった。「アラブ諸国の春」でイスラム移民が数十万も欧州に押し寄せる恐怖の噂が焚き付けられた中で調査はなされた。さらに、サルコジが近く「フランスのライシテ(政教分離)とイスラム」論議(デバ)を打ち上げてイスラム特視化にさらに火を焚きつければ当然のこと、フランス人の右傾化した調査結果が予想される。この「危険な遊び」の目的は人気のないサルコジとル・ペン票の同一視にあると心配されている。

ハリス・インターラクィブ(Harris Interactive)調査会社を使いパリジャン紙が行った調査ではル・ペン25%、サルコジ21%、オブリ21%であった。しかし、オブリ社会党書記長だが、まだ社会党の大統領選挙候補者と決まったわけではない。サルコジ大統領も本人は大統領選挙に出たがっているようだがまだ正式に候補宣言を発表しているわけではない。他党の候補者も出揃ってない内に、この調査対象の3人の選択をどのようにして決めたのかは謎である。この世論調査をどう解釈したらよいのだろうか?

こうした調査目的への疑問は左右両陣営から起こっている。

ロラン・ファビウス社会党元首相は、サルコジ大統領が「フランスにおけるライシテ(政教分離)とイスラムの位置」という論議(デバ)を打ち上げたことで、極右翼へフランス人を押しやった結果の数字なのだ」と、今回の世論調査の結果を分析して見ている。これで「フランスの極右政党国民戦線(FN)と共和主義者との隔たりが取り除かれてしまった」とも指摘した。

これは重大な指摘であって、これで両者、つまりFNとサルコジの与党仏国民運動連合(UMP)が同一視される結果になったというのがこの数字に表れていると述べていることだ。ということは、国民戦線(FN)フロンナショナル党首のマリーンヌ・ル・ペンの25%の今回の世論調査の数字の中にはサルコジ大統領の支持者が流れ込んでいるということだ。別の言い方をすれば、流れて込んでいるのではなく忍び込んだと見るべきであろうか。

そのことを警戒するようにマリーンヌ・ル・ペン党首は次のような発言をこの世論調査結果に寄せている。「3ヶ月前には11%か12%でしかなかったのに、驚いた」といっている。また同氏は「現在、別の世論調査では私は20~25%なのに」 「私は、何かあるのだと見ているのです」と慎重なのだ。

サルコジ大統領の熱烈な支持者であるナディーヌ・モラノ職業指導と研修相(前家族相国家書記官)は、オブリ社会党書記長ではなくて「どうして、有力候補と目されるドミニク・ストロスカーン国際通貨基金(IMF)専務理事(元仏社会党経済相)を調査会社はテストしなかったのか」といっている。が、こうもいっている。つまり「今までに、14ヶ月前の調査で優位にあった候補者は勝ったためしがない。だから良い知らせである」というのだ。

ジャンルック・メランション左派党議長(Parti de gauche)は、「サンタクロースがトップだとしたら、政治は総てが諧謔(かいぎゃく)な劇になってしまうだろう。どうして、フランス人が唯一ファシストをトップに選びたいというのか、そんなことはないだろう」といっている。調査を疑問視しているのだ。

社会党の衆議院内議長であるジャン・マルク・アイロー議員は「危険な遊び」として、「それは、間違いなく、サルコジの計算であって、極右政党、国民戦線(FN)の人気を上げることによって自分を並べさせるようにして、左派を落とそうとしている」と、先ず並べておいて、次に他を落とすという、かなり巧妙に仕組まれたいわゆる日本でいうところの真言流の盗法に相当する作戦だと見ている。(そういう術策を使えそうな人はフランスにはいないと思っていたがどうもそうではないらしい。)

ドミニク・ドゥ・ビルパン前首相は、サルコジ大統領が21%と「人気がなくなったのは、ニコラ・サルコジの公約が守られなかった結果である。アイデェンティティー・ナショナル( l’identité nationale国民の同一性 )」やロマ人などを論議してつついてばかりいて、フランス人の求めている問題に真剣に取り組んでこなかったからだ。前からわかっていた結果である」とフランス国営放送・テレビA2で2月6日に話している。


N世論調査会社社長は、1000人ほどのサンプルがあれば電話であろうが直接面接方式であろうが、それ以上の数は必要なく十分に調査の結果が正確に出るのだとこの件で発言している。しかしそれならばどうして大統領選挙などする必要があるのだろうか?この世論調査には別の効用があるようだ。

調査は未知の予測であるが、選挙は結果である。フランスの極右政党、国民戦線(FN)フロンナショナル党首のマリーンヌ・ル・ペン氏は「今回の世論調査で25%を獲得したが、これで自分は名を挙げるかも知れないが、選挙に勝つことが目的なのだ」と記者会見したのはそのことを意味している。

つまり操作で、世論調査は名前を上げさせるのにしばしば使われるということだ。選挙の結果である勝敗を操作するために世論調査は利用されるということを前提にしているのである。

世論調査の予測を人々に公表することで、人々の意識を変えさせてゆくことに調査の重点が置かれる場合があり、今回のものはその可能性が十分に考えられるということだ。