2015年12月23日水曜日

フランス市民は イスラム・テロの恐怖政治に不満だ

I.  ドラム缶で串焼きを売る町
サンドニの駅を降りると焼き鳥の強い匂いと黒煙が立ち込め、30人ほどの黒人がドラム缶に火を焚いて串焼きを売っていた。一カ月前の11月13日夜に130人の死者を出したパリ・サンドニ同時テロ襲撃事件を計画したとみられるベルギー・モロッコ国籍の容疑者アブデルハミッド・アバウド(Abdelhamid Abaaoud)が逃げ隠れた町だ。 サンドニは代々の仏王の霊廟であるサンドニ聖堂があり、ワールドカップの競技場がある。町はアフリカや中東アラブの貧しい移民たちで溢れている。

II.  1時間に5000発の銃弾が撃ち込まれる




アブデルハミッド・アバウド容疑者の隠れ住むアパートはサンドニの中心街のコルビヨン(Corbillon)通りだ。ここを18日早朝4時少し過ぎに重装備の仏国家警察特別介入部隊(RAIDが突入襲撃し、5000発の銃弾が撃たれたと検事は発表していた。1人が爆発物を身に装着した爆弾ベルトでカミカゼ自爆をした。もう一人も死亡している。警察側は5人が軽傷。死体は判別ができない状態になっていた。



30日に筆者が訪ねた時にはアパートの壁には弾痕は殆どなくテレビで見たのとはひどく異なっていた。窓はベニヤ板で塞がれていて、入り口には柵が配されてそこに警備員がいた。写真を撮っていると、背の高いアラブ系の警備員の男性が声をかけてきて、中を見たいなら案内してくれるという。奥には小太りの黒人の相棒がいたが、私を咎める節もない。さっきの男性は中庭を挟む奥の建物の3階を指さして、あそこから同じ3階の前の建物に立て籠もるテロリストを狙って撃ったのだと説明した。 なるほどテレビの映像で私たちが見たのは、今は窓が塞がれてあるシャロン通り側からであり、この中庭を挟んで銃撃戦が展開された場所は見たことがなかった。男性は、だから弾痕は通り側の壁にはほとんど無いのであると筆者に話した。さらにこの男性は、このことを日本の人々に知らせてほしいのですと前置きして、ここに住んでいた人々はみんな貧しい人たちであり、追い出されてしまったのです。5000発という数字はメディアが作り上げたものなのですと話している。

III . 天国に行きたくないイスラムの青年




 事件のあったコルビヨン通りはこのサンドニで一番の繁華街である共和国通りとは20メートルと離れていない。そこにかなり立派な中央郵便局があり、その前が歩行者天国で20代後半のアルジェリア人の青年にインタビューできた。青年はフランスで生まれたがここが好きでないと言った。イスラム主義国家組織(IS)のテロをどう思うかと質問すると。自分はイスラムの神を信じるが、信徒ではない。彼らは誤った教えを信じているのだと言った。彼らは人を殺害するだけでなく地球上の生あるものを総て殺すことがその教えなのだと言った。それならばテロリスト自身も人間だから死ぬべきではないのかと糾すと、青年は一瞬考えたが、直ぐに、そうだと答えた。テロリストの自爆は神のいる永遠の天国に行ける約束なのであるというのだ。まさか、そんな天国に行きたいとあなたは思ってはいないでしょうと、折りたたむようにして聞くと、青年は、天国にはいきたくないと答えた。

IV. 仏の空爆は報復・復讐ではないのか?

 全長100メートルほどのコルビヨン通りには小学校と幼稚園が向かい合ってあった。RAIDの突撃の時には児童たちも大きな精神的ショックを受けた。 筆者はこの小学校の父兄にインタビューできた。生徒は殆どが移民の子弟だという。この通りは世界的に有名な通りになってしまったと笑っているフランス人の婦人に、なぜフランスでは新聞やラジオ・テレビもこのテロ事件で、「報復」とか「復讐」とか書かないのですか?オランド大統領も一言もこれを言っていないが、何故なのかと質問した。賢明な婦人は、確かにメディアではそうは言わないし書かないですが、オランド(大統領)はすでにシリアに戦闘機を飛ばして空爆してしまったのです。愚かなことです。といった。 それは、「目には目を」「歯には歯を」のイスラムとフランスが変わらないことになってしまうということなのですか?と問い返すと、それには答えずに、みんなが互いに恐怖で不安を抱かされるテロ騒ぎが不自然でならないのですと語った。

V. テロで恐怖させる政治





 パリの南部郊外のモンルージュでは、テロリストが捨てたと見られるパリのテロで使用されたと同型の爆弾ベルトがショパン通り(Rue Chopin)のゴミ置き場で11月23日に発見された。現場は住宅地で鉤型にカーブしたこの通りの一件屋の前であった。近くに住む女学生は筆者に一週間も爆弾ベルトがこんな所にあるわけがない。オランド(大統領)はおかしいと言った。 フランス人たちはテロ事件が故意に拡大され、心の不安が掻き立てられて暮らす恐怖の政治を嫌っているようだ。