この石版を発見したのは順化園とよばれるジャルダン・ダクリマンタション(Le Jardin d'acclimantation)が閉まる夕暮れ時であった。この門を外に出て左側の茂みの中に置かれてあった。落ち葉が軽く覆っていたのでこれを取り払ってみて驚いた。そこには次のようなことが書いてあった。1931年に旧植民地フランス連盟とニュー・カレドニア政府の合意で百人ほどのカナック人を彼らの住む"島"をパリの植民地展示会で紹介するためだと信じ込ませて募集した。1931年3月31日にマルセーユ港に上陸した後で、彼らは1877年から民俗的な見世物が定期的に開催されていたパリのブローニュの森にあるジャルダン・ダクリマンタションに連れてこられた。一夫多妻と人食いの野人として彼らを展示したのを見に多くの観客が集まった。見世物として展示されていたカナック人104人がやっと故郷に帰れたのは1931年11月11日になってからである。こうして、ヨーロッパでは彼らを"動物"として見ていたという当時の象徴としての"人間動物園"の最後の一つは終わりを告げたのである。
森の中にパネルに貼られた原住民の子供たちの写真だ。となりにはトラの口を開いたパネルがあった。そして熱帯地方の毛の原色の鳥たちの写真パネルがあった。問題はこの子供たちと野生の動物たちとの境界線であった。わたしはこの時にあまりのとっぴな対比の展示に不思議さと不可解さがあいまって唖然としていた。でもこのパネルを見る前に韓国の庭園や龍のジェットコースタや毛虫のジェットコースター、そして蛙のジェットコースターを見ていたので、それらの共通する意味からこの原住民の子供たちのパネルの意味が解けたのだ。それは「飼いならし」である。鳩は長い時間をかけて人類が家禽化してきたもの。龍は魚や鷲やライオンや蛇などの合成動物で存在しない架空の動物で、ローマ以前のガリアではグリフォンと呼ばれ、キリスト教の時代になってこれを退治することになる。蛙は両生類で不思議な鳴き声を出すが先ずなんといってもフランス人が食用に飼育した。毛虫はよくわからなかったが、おそらく姿を変態させることに関係するのだろうと思った。
日本の国旗はここでは何を意味するのか不可解だ。日本の木曽の民家だという。これを民俗学的な資料館などと早合点してはならない。この裏隣には柵を一つ隔てて2匹の駱駝が口を動かしていた。駱駝の傍に置かれた日本の民家はどんな関係にあったのか。どうしてこの順化公園ジャルダン・ダクリマンタション(Le Jardin d'acclimantation)の日本人民家に日本の国旗が立っていなければならないのか?また韓国庭園などに中国の神である龍のジェットコースターが2基もあるのかは非常に不思議なことなのである。
鳩小屋。内部が見えるようになっている。鳩の利用は広範囲にわたる。フランス人は鳩を食べる。
ドーベントンの像で、彼はスペインから連れてきた羊の毛を改良する仕事をした。メリヤスという種がそうだ。動物改良は魚や哺乳類などだけでなく人間に対してもナチス・ドイツなどがやったことが知られている。フランスでは黒人など有色人種は差別されていて動物としてここのジャルダン・ダクリマンタションでは扱われた。故郷のニューカレドニアから目的も期間も騙されて連れて来られた。ここに残ったグループは引き続き動物と同等の見物の対象になっていた。この後で、他の2つのグループはドイツに見世物として連れて行かれた。1931年秋にニューカレドニアに帰ったものは140人ほどで、死亡したり行方不明になったものも多いという。
韓国の「ソウル公園」という名前がつけられている。鯉や水鳥が泳いでいる。大変に綺麗な庭園ではあるが不思議な様相をした韓国人の石像が建てられている。ニュー・カレドニアからここに連れてこられたカナック人と同じように、アジアの国の日本や韓国の異文化の家屋などがここのジャルダン・ダクリマンタション(順化公園)に置かれる意味は想像に難くないことである。
韓国人の装束を身にまとった彫刻がこの庭園内のあちこちにある。ジャルダン・ダクリマンタション(Le Jardin d'acclimantation)に置かれている限り、人種差別され動物のように見世物にされたカナック人と無関係ではないと思える。
これらの石像は韓国人の祖先なのか?
これが龍のジェットコースター。子供はやはり龍を退治するために、とは考えないかもしれないが、意識構造としてはジャルダン・ダクリマンタションは、異文化を同化もしくは順化させるものだから、当然のこと変態する奇怪な毛虫や両生類の蛙や悪魔の象徴を持つ龍を手なずけるのはうなずけるのである。
羽元を切られて飛べなくなった鳥が、往来する訪問者に愛嬌を振りまいているとは私にはみえなかった。まったく寂しそうな鳥たちの姿であった。
鳥が飛べないなんて鳥の存在を失っている。背後の建物は最近オープンしたルイ・ビィトン基金。龍の姿にわたしには見えたのだが。この龍だがここにあるのは中国龍で西欧龍とは羽の有無で異なるという意見も出たが、私にはここの龍はフランス人の見る龍であり、龍の観念であることには変わりはないと思える。
ジャルダン・ダクリマンタションでは龍は順化されなければならないのである。
蛙も同じくジャルダン・ダクリマンタションでは順化の対象だ。
日本のかまど。ジャルダン・ダクリマンタションに展示されれば民俗学的な意味ではない。
餅をつく臼。
日本の木曽の民家の内部。
日本の木曽の民家
駱駝が日本の木曽の民家の奥に見える。
ジャルダン・ダクリマンタション(Le Jardin d'acclimantation)訪問のいきさつ。遊園地に竜のジェットコースターがあるというのが私の関心で、竜はサンミカエルに退治される悪魔のシンボルであったからだ。
ジャルダン・ダクリマンタション(Le Jardin d'acclimantation)訪問のいきさつ
入り口から少し奥へと公園を進んでいくと、道の右側に人物とその足元に羊がうずくまっている立派な彫刻がありました。ここの案内版にはこの彫像の学者はランス医学部を出た人で動物学者のビュフォンと交流があったみたいで、スペインから持ってきた羊の毛の改良を研究した人だということです。だんだん不思議さが増しているうちに、私はガチョウだの綺麗なみたこともない鳥や、孔雀やアヒルが公園を歩いていて逃げないのです。人に聞くと飛べないように羽の根元を切っているのだというのです。飛べなくなった鳥とはなんなのか?私はここの鳥たちがなぜか悲しそうにしていることに気づいたからです。動物愛護協会はどう考えているのだろうか・・・。
竜がパリの外れの森の中にジェットコースターとなって存在していると聞いた時から始まった。その時に、私はこの龍のジェットコースターをフランスにおける差別の文化シンボルのだと直感したからだ。龍は西欧の龍と東洋の龍とでは違うので私の考えとは無関係だとしても、東洋の龍をこの順化公園であるブローニュの森のジャルダン・ダクリマンタションで飼いならすという意味では、鳩や蛙や毛虫とまたは、カナック人や植民地主義的な差別意識からして東洋に対する西欧の優位をこのジャルダン・ダクリマンタションは表現するのには、かえって東洋の龍だからこそ好都合だということにもなるのである。
10月8日 22:15
この近くに大変に立派な「ソウル公園」がありました。夕方ということもあったのでしょうか、さびしい感じのする公園に思えました。このソウル公園の前が龍の形を思わせる巨大なガラスのルイヴィトン基金の建物が現れました。またそこに飛べなくされた鳥たちの一群が集まってきて、わた
しは写真に彼らを納めました。
10月8日 22:21
最後に大変に恐ろしいものを見てしまいました。このアクリマタションのあったところに原住民の人たちが閉じ込められていて動物同様に見物の対象になっていたようです。子供を2人連れた婦人はアクリマタションの意味について、動植物の適応だけでなく人間にもそれを考えていたのかもしれないと、真剣な面持ちで私に答えてくれました。この方の子供の一人は中国で生まれもう一人はニューヨークで生まれたそうです。
10月8日 22:28
【参考記事】
「フランスの人種差別(ラシズム)」 杉山光信論文 「 講座 差別の社会学 第3巻 現代世界の差別構造(栗原彬 編集 弘文堂 平成9年)」所収を読む