この秋は、ドイツでマルチン・ルッターによる宗教改革の先駆けとなった95か条のテーゼが宣言されてから丁度500年を迎えるわけで、これとの関係でヒェロニムス・ボスやブリューゲルの北方ルネッサンス絵画の日本での展示会となり、また世界的に話題になっているのだろう。フランドルやオランダはカトリックに対するプロテスタント運動の前史となるわけで、同時代のイタリアとは異なって彼等の絵画には聖職者やキリスト教会への世界風刺の表現があるように思える。ウィーン歴史美術館にあるブリューゲルの「バベルの塔建設」の絵もそうだが、終わりなく無限に続く数えきれない数の労働者を集めた建設現場は、蟻が蟻塚を天までも築き上げようとしているようで、またキリスト教徒が蟻のように描かれたのだとも思える。それが宗教改革で崩れかかろうとしている絵に見える。
ボスのパリ西近郊のサンジェルマン・アン・レイやルーブル美術館の「酔いどれ船」なども、いずれも僧侶やそれとグルになっているペテン師達を風刺した絵で、非常に不思議に見えるが面白い。フランドル絵画は細かい部分まで実に良く描いている絵が多いと思う。イタリア絵画で、キリストの足が全面に大きく描かれて磔刑の釘が刺さった傷も見える絵は、ミラノのプレラにあるマンテーニュの絵だとおもう。これは短縮パースペクティブの描き方だが、これと非常に似ているキリストの横臥した絵がドイツのシュトゥトガルトにもあって何度かみた。これはマンテーニュよりも少し後の時代のカルヴァジョの絵であった。
この16世紀17世紀の宗教改革の前後の中において、フランドル絵画とイタリア絵画ではその精神性の表現が大部異なっているように見えるのです。或いはイタリア16世紀はフランドルのルネッサンスではなくてバロック表現になっているとも言えます。その場合でも、そこにやはりキリスト教を巡るプロテスタントとカトリックとの表現対立が、つまり「人間性」と「神性」とを分ける芸術の相違が見られるようです。