本書は一口に言ってローマの奴隷性がなぜ存在したのかを考えた書 であると言うことができるだろう。ひとつはそのローマの奴隷とは 現在一般に我々が想定するアフリカの黒人奴隷のことではなくて、 むしろローマなどよりも文明国家のギリシャとかフェニキア人など を殖民地にしてそこの市民たちを奴隷にして支配したということだ 。ローマは弓削氏も第8章、9章、10章でローマが文明国家など と言えるものではなくて戦争と暴虐と貪欲と不正とまやかしの支配 であって、平和はそれを正当化する誤魔化しであったことを何度も 繰り返し語っているのが印象的でこの見方はよくわかる。言ってみ れば非文明国ローマの野蛮が文明国民を支配するには、この暴力と の泥棒・略奪を正当化する奴隷性が必要であったということだろう 。それが現在の我々の時代までヨーロッパ文明の根幹に根づいていて変わってないということなのだ。そういう 意味ではこの本は反ヨーロッパ的でさえある。歴史を学ぶとはこう いう読み筋が生まれることの面白さがある。弓削氏は最終章でローマ帝国の人種差別思想がどこから来たのかを 探っている。
「ローマはなぜ滅んだか」弓削達著 講談社現代新書 |