そういう即席テロを実行させるキットが、最近のダエッシュ(Daesh=IS)の手薄状態から編み出された物的なテロの手段であり、かつ人的にはテロの訓練を受けてない一人の洗脳化の方法が出てきているのだということだ。
イスラム原理主義では、ラマダンの期間に多くの人が自爆テロの行為が増加するわけで、その断食の時に命を神にささげることがより神の恩寵に叶って天国に行けるという。しかし今回のテロ犯行者は、酒を飲み麻薬をやり、女性癖もわるく離婚したばかりであった。イスラム教徒の義務であるラマダンもやらないし、イスラム寺院にも殆ど顔を見せないという人だった。特にテロリスト的な過去があるわけではないが、精神的に不安定で暴言を吐いていたという。
私の推測では、ニース北の移民地区に住んで2年ほどになるというこの男性はチュニジア人だが二重国籍者で、イスラム教徒でもなく、だからと言ってキリスト教徒にもなれないわけだ。(ですからサルコジなどには、当然のこと弾き出される対象になる人です。ジンメル的には対外排斥と対内結束の同時性で、どちらの世界にも生きられない境界人だともいえるでしょう。)フランスは彼にとっていつまでも、やはり異質の文化でしかないだろうと思えます。イスラム文化を背負いながら、そこにも帰属できずに、それが重苦しく感じられていたのではないか。両方の世界からはじき出されていた存在ではないかと思います。
サラフィスト派の宗教観がパラディを誰にでもどんな人に対しても、ただ一つの条件を叶えることによって実現することを謳っているのではないか。つまり、あらゆる不純な悪行や過去の間違った行いも、サラフィスト派の神を信じることで、それらは総て帳消しになって天国に行ける。その為にテロが条件づけられていたのだろうと思うわけです。
2015年11月13日夜に起きたパリ及びサンドニ競技場近くでの同時テロ射殺事件の後で、サンドニ地区やサント・ウーアン地区でのサラフィストの聞き取りをイスラム寺院で幾つかやった時にそのことを感じています。これは非常に危険な思想であって、地球上の総ての生命を全部殺害することで神の世界へ行けると考えている。
つまりこの男性のような一般のイスラム教徒を逸脱した人に対しても、サラフィストの神の世界へ行くことが可能だと教えていることです。仏教でも、これは成仏というのは彼岸にあると教えたり、あるいは往生と言い換えて西方十万億土の浄土世界へ誘う法然念仏などとも似ている。サラフィスト系イスラム原理主義も念仏も、此土の現実社会ではなく彼岸や他土の非現実世界を念願する宗教思想だからです。そういう傾向はキリスト教徒にもあるが、サラフィスト系イスラム原理主義者には、魅力的な教義なのでしょう。この教えに洗脳されて急速に過激化したテロリストが数日で出来上がり、今回のニースの悲劇を可能にしたのだとも考えられます。