人権団体連盟や野党の指導者たちは、「ロオムや旅の人々のある種の振る舞いが問題」だとのサルコジ大統領の発言が人種差別の表現として問題になっている。この発言は「危険なレッテル化」であると批判している。「旅の人々」というのはフランスやヨーロッパを旅して不定住者のことでありフランス国籍の者が多い。オロムとは北ヨーロッパやバルカン半島から流れてきている移民のことでジタンとも地域によっては呼んでいる。(本文の初出 /公開日時: 2010年7月30日 @ 20:08)
人種差別と反ユダヤ主義に抗議する(Licra)や、人権擁護団体アムネスティ・インターナショナル、人権団体連盟(LDH)、チィガンフランス教会連盟、ロオムの声、などがサルコジ大統領の発言であるジタンやロウムや「旅の人々」を指して「ある種の振る舞い」に「問題がある」とレッテル化したことを捉えて批判している。この怒りはさらに拡大している。野党の指導者たちは「民族に烙印を押している」としてサルコジ大統領を告発している。
LDHは、「大統領は容認できない人種差別のレッテル化によって人種差別主義者の烙印を選んだ」と訴えている。
ロオムや「旅の人々」を刻印することで、贖罪の山羊として利用し、「国家の怠慢」の非難を肩代わりさせようとしていると批判している。Licraは「危険なレッテル化」だり「民族の犯罪的扱いである」として抗議している。
ブノワ・アモン仏社会党スポークスマンは「大統領は法律の示す旅の人々のための空間を用意しなかった」と述べた。緑の党のノエル・マメール、エイコジスト・ベーグル市長は、この「旅の人々」の問題を大きく騒ぐこと(スティグマ化すること)で、サルコジ大統領が現在足を絡ませているベッタンクールとブルト労働相事件の陰を掻き消すための材料にしようとしていると分析している。
ジタンに詳しい映画監督のトニ・ガティフ氏によると、「旅の人々」というのは全然よた者なんかではなくて、フランスの文学のモリエールからヴィクトル・ユゴーまで彼等は登場する昔からずっと存在する民族であると説明している。
▼「旅の人々」は真実を求めている。
彼らは仲間が警察に兎を射殺されるように撃ち殺されたことに不満なのだ。18日、怒って抗議した旅の人々はフランスのロワール川の中流のブロワ城に近いサンテニャン市の交番やパン屋などを襲って樹木を切り倒し3台の車を焼き払った。警察側の見解では、16日の夜から17日にかけて警察の車は、逃走する「旅の人々」の二人の青年を追っていた。検問で別の2人の警官の停止命令で青年たちの車は一度停止した。車が再度動き出し警察をボンネットの上に弾き飛ばしたので、警察が発砲し旅の人々の一人ルイジィ・ドゥケネ(22歳)の後頭部に弾丸が命中し即死したというものだ。旅の人々が同市を襲撃したのはその復讐なのだと考えられていた。
ところが、「旅の人々」のルイジィ・ドゥケネ氏のいとこの証言によると、「(自分たちは)罠にかかったのであり、これはイノシシ狩りとよばれるもので、撃たれる前に狩り出されたのだ」といっている。また、「警察の検問はなかった。警察にいきなり射撃された」といっていて、警察側の証言と大分不一致が多く食い違っている。
車を運転していた 同氏は、「もし車を止めたかったのなら運転手を撃つべきで、助手席の者を撃つようなことはしないだろう。そうではないか?」と、リベラション紙に発言している。
「旅の人々」とは本当は、95%はフランス人であるといういう。呼称は一般的には差別用語でジタン、ツィガン、ロマンなどと呼ばれている東ヨーロッパ系のノマードを含むものだ。多くは定職を持たたない職人などでフランスだけでなくヨーロッパ中を旅していて、町の周辺部にキャラバンを停車し集まって暮らしている。今回、水道やトイレの施設がある高速の休息所などの不法占拠をした場合、テントなどをすべて撤廃するとサルコジ大統領は宣言した。
▼スケープゴートの力学、アマルガムの手法とは
サルコジ大統領はこれらの「旅の人々」とルーマニアやブルガリアから流れてくる人々と同一視(アマルガム)していたようだ。今回は後者の人々に対してフランス滞在の規制を明示したわけだ。しかし民族を差別した刻印には代わりが無いといえそうだ。
人権団体連盟(LDH)ではこれは「旅の人々」やジタンに烙印(スティグマ)を押すことで、フランス社会の諸問題を贖罪の山羊(スケープゴート)として、彼等の一身に背負わせようとすることだと述べ注意を喚起していた。
LDHは、サルコジ氏が「旅の人々」の民族性をこのように利用しようとする協議は、彼等を犯罪人扱いしているようで、共和国の法律に照らしてすべきではないと訴えていた。
烙印(スティグマ)化とかスケープゴートというのはこの場合は、もともとの論じられえるべき問題から目をそらせるためのメデア上での戦略のことをさしている。ある問題を過小視させるために興味をひきそうな事件を巨大視させて時事の問題をすり替え(アマルガム)報道する体制メディアによる手法である。現在のフランス政府の最大の関心もここにあると見る。