2013年11月12日火曜日

サッカー世界選手権、メキシコ-フランス、「ザイア効果」と「アンリの神の手」に平伏

フランスチームの敗因は、「ザイア効果」と「アンリの神の手」の巨大な精神的な圧力の前に押しつぶされ平伏したといえる。選手もフランス人もこれへの不信がいまだに晴れないでいる。ハンドリングで名を上げたアンリー選手はボックスに入ったまま、簡単には使えない辛さ。リベリー選手がボールを持てば観衆の心が騒ぐ。南アフリカで開催中のサッカー世界選手権は17日、メキシコ-フランス戦で、メキシコチームが2点を後半に入て2-0で負けた。フランスチームの落胆は凄い。応援団も失望。サルコジ大統領もスポーツは経済危機の特効薬と考えていて、「みんなで応援しよう」といっていたのに、どうしてこれほどまでにフランスチームに人気がないのか?(本文の初出 /公開日時: 2010年6月18日 @ 17:27  )
(写真撮影/筆者)仏国旗を背後にフランスチームを応援。レストランで働く青年たち
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フランスチームの監督のレイモン・ドメネック氏は「なにもいうことはない、残念だ」と試合後に会見。チームをリードして良いパスをだしていたマルダ選手は他の選手が答えない中で、試合直後のインタビューに答えた。「名誉を救うためにも、どんなことがあっても、一つも勝たないで帰ることはできない」と話した。それを受けるかのように18日朝、英国からサルコジ大統領は、フランスの負けは最終的なものなのか?と問い、「そうではない」として、ちょうど70年前のロンドンからのドゴール将軍のラジオ宣言を挙げて、ナチス・ドイツに対する戦いを続けなければならない。レジスタンスを開始した歴史を挙げて話した。スポーツや歴史を政治家が政治の土俵で利用する不思議な発言となった。
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(写真撮影/筆者)
スーパーで買い物をする青年、「え!試合を見ない人なんかいるのか!」
フランスチーム敗戦の理由は、4月末にドイツのメンヒェングラートバッハで開催されたドイツサッカー選手権で、ミュンヘン・バイエルンチームに参加しているフランス人フランク・リベリー選手がボールを持つごとに観衆から大きな野次が湧き起こっていたことでもわかる。これは「ザイ(ヒ)ア効果」の影響ではと報道されている。「ザイ(ヒ)ア効果」とは、リベリー選手がザヒアと呼ばれる名の未成年の売春婦をフランスからミュンヘンのホテルに呼んでいたことへの抗議であった。

結果は予想されていた。5月9日のパリジャン紙は世論調査(5月5日6日に調査)の結果を報道して、フランス人の49%はフランスチームが好きでないと発表。半数近いフランス人が相対的にブルーチームを嫌っているわけだ。5月19日のパリジャン紙でも「どこのチームがサッカー世界選手権に優勝すると思うか?」との世論調査に対し、フランスが勝つと答えたのは、わずかに3%であった。

サッカー世界選手権への出場ではもう一つ巨大な圧力がフランスチームにはあった。それはアンリー選手自身が後で認めたように、明らかなハンドリングによって、今回のサッカー世界選手権の出場権を手にしていたからである。これに対するフランス国内の評価が悪い。これがパリジャン紙上に掲載された世論調査の結果に現れていたのであった。忘れてならないのは、フランス人はサッカーが嫌いなのではなくて汚れた不倫理なチームが嫌いだということである。
記者のアンケートした女子高校生は、テレビで家族とフランスチームを観戦はするが、「負けるに決まっている」というのだ。どうしてかと問うと、「彼等は最低だから」と答えて、友達の顔をみて笑っている。たしかに無関心なのだが、その中身はこうした選手への失望観があるのだろう。またスカート姿の中年の婦人は試合のあるのは知っているが、「私は見ない」としながら、理由を付け加えた。夜に多くの人が街頭にでて危険だから遅く帰る娘さんを車で送り迎えする必要があるのだといった。アフリカ系の子供をつれた青年は、フランスチームの試合をテレビで観るのですか?と聞くと、「え!試合を見ない人なんかいるのか!」こんな感じで、熱があがっていた。小脇に新聞紙を抱えて仕事カバンをぶら下げた中年の男性は道を急いでいたが、訪ねると、「サッカー、ネエ、キミ、興味ないよ」とあっさり返事が返ってきた。サッカー世界選手権の期間はレストランなどではビールを特別サービス料金にしたり、大手スーパーでもフランスチームの勝ち点によって電気製品先買い割引セールをするなど、こことばかり、政治・財政危機で財布の紐の硬い時期でもあり、儲けることを考えている。

この祭典で国民の感情が沸き立つ中で、政治への無関心が薄れる時期に弱者に不平等な重要法案を政治家は可決しようと急いでいる。しかし17日のフランスチームの敗北はそれに水を掛けることになった。国民のためにはそのほうが良かったのだろう。

ここに、市民の清潔なスポーツ感情と企業や政府のスポーツを利用しようとするイデオロギー的な思惑とが存在することが露見したのであった。

以前にオリンピック・マルセイユチームの会長で、スポーツ製品会社アディダスの大株主でもあったベルナール・タピ氏は、最近のテレビ出演で、サッカーは移民と下層社会の一度も人生で成功したことのない人々が自分をそこに投影させて歓喜しているスポーツだとの発言を、ロゼリーヌ・バッシュロ仏健康相を前にしている。

リヨン市立図書館のサイトによると、サッカーは先ず最初にアイデェンティティー・ナショナル(
国民的同一性 )」の強力な形成要因として考えられるが、一方では人種差別をもたらす要因ともなり、国家的な憎悪を戦闘的衝突として起動させたり、市民間の侮蔑の手段となる。が、これは政治やイデオロギー的な賭けの手腕の問題になっているとして、政府の責任が指摘されている。

政治家はこの祭典の勝敗がどうであるかには本当は無関心なのではなかろうか。フランスチームが勝っても負けても国民の悲喜こもごもの感情を、歴史や偉人を介して政治に取り込み利用することが最大の関心なのであろう。民衆の感情の高潮と国家のイデオロギーの危険な結合が看過される。

(参考記事)
サッカー世界選手権、二人に一人に近いフランス人は、フランスチームを嫌っている(パリジィアン紙)
http://www.leparisien.fr/coupe-du-monde-2010-football/france/coupe-du-monde-moins-d-un-francais-sur-deux-aime-les-bleus-09-05-2010-914898.php
サッカー世界選手権、フランスチーム支持は改善なし(パリジィアン紙)
http://www.leparisien.fr/coupe-du-monde-2010-football/france/coupe-du-monde-la-cote-d-amour-des-bleus-ne-s-ameliore-pas-19-05-2010-928062.php
リベリー選手に野次で閉じた黒い週間(ル・ポワン誌)
http://www.lepoint.fr/actualites-societe/des-sifflets-pour-finir-la-semaine-noire-de-ribery/920/0/447680
「スポーツと社会」、「スポーツと政治」に興味ある方に有益な何冊かの簡単な解説(リヨン市立図書館)
http://www.pointsdactu.org/article.php3?id_article=411
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