2016年1月9日土曜日

ドイツでヒトラーの「我が闘争」が 「批判版」で再出版 

2016年1月7日 ドイツのシュットガルトのWittwer書店 
(写真は筆者撮影)
(パリ=飛田正夫2016/01/09 19:07日本標準時)ユダヤ人全滅を計画した人種差別者でナチズム創始者の独裁者アドルフ・ヒトラーの著作「我が闘争」«Mein Kampf》を、批判し注釈した「批判版」が出版された。ドイツのミュンヘンの「現代史研究所」(IFZ)のクリスチャン・ハートマン氏ら歴史家8人による「ヒトラー 我が闘争 批判版」(Hitler, Mein Kampf Eine Kritische Edition)、全2巻1948頁は1月7日10時30分から、ドイツの書店で発売された。同書の内でヒトラーの「我が闘争」は780頁を占める。IFZの出版企画は2009年に始まるが、そこではヒトラーの「我が闘争」をそのままの再出版の形で自由に読めるようにしておくことは非常に危険だという危機感から出発していた。IFZ の「批判版」では、3500個所に及ぶ批判と注釈を本文に施したところに意義があり、現代人が同じ誤りを起こさないようにと、《神秘を剥ぎ崩す》方針もあったのだとしている。

何故、こういう本が再出版されるかだが、これは1945年以来バヴィエール地方国が所持していた版権が2015年12月31日に切れた為で、今後は誰でもが出版することが出来るために、ドイツやオーストリ政府はこれまで同様にヒトラーの「我が闘争」の出版を禁止するが、しかしこれまでもインターネットや古本を求めて見る事は可能であったことなどもあって。ドイツは、「批判」や「注釈」のある「IFZ の批判版」の様なものであれば、ヒトラーの「我が闘争」の出版を今後は許可することにした。


単なる再出版ともなれば、ここに大量虐殺や人種差別の怨念を喚起させるナチスのシンボルとしてファシズム再興の大きな起爆剤となるのではないかという不安が残る。他方で、民主主義の価値である出版の自由や表現の自由は尊重されなければならず、たとユダヤ人やロマ人やチガンなどの絶滅を謀るナチス独裁のイデォロギーの書でも、弾圧して「我が闘争」を発禁にすることはできないというジレンマがある。


私(筆者)は、1月7日にドイツのシュットガルト市内のWittwer書店の1階フロワー奥に置かれていたのを見たが、これは「IFZの批判版」ではなかった。


「単なる再出版」のヒトラーの「我が闘争」ではなくて、「IFZの批判版」をドイツの高等学校の教員組合でも積極的に利用していくべきだと言っている。しかし、当初は発行部数は3000部から4000部で、値段が一冊60ユーロ(約9千円)であることが、一般の読者には受け入れを困難にしているとの批判がある。


7日の本の出版会では多くのジャーナリストから教育の現場で「IFZ の批判版」を学ぶことが今必要なのかとの質問や、一般へ公開されることの利益は何のかなどとの疑問も出た。これに対しハートマン氏は、注意しなければならないのはヒトラーのナチズムを監視することを止めないことだ。やめれば逆戻りすることになると話している。このヒトラーの「我が闘争」«Mein Kampf》の「一般的な版」は危険だし、特にそれが教師に読まれる時である。現在行われているいくつかの翻訳書においても多くの留意点がある。


一方、ドイツ政府では今年初めからの「我が闘争」の出版で、批判や解説のない人種差別の怨念を掻き立てることを目的にした出版を訴える方針だ。


ドイツ・ナチス全体主義の思想的なバックボーンになった「我が闘争」は、1924年と1925年に書かれ、1933年以降、第三帝国の時代に1240万冊が売られている。1945年以来、出版が禁止され、ドイツでは「我が闘争」«Mein Kampf》は、その引用文でさえ禁止されている。


フランス語版でのヒトラーの「我が闘争」«Mein Kampf》の出版は1934年が最初で、これは翻訳の質が良くないと言われるが今でも手に入る。2015年には2500冊が売られたという。


フランスでは、2016年秋ごろには、Fayard出版社が専門家によるコメント・解説付きでの新版を出す予定だ。


ユダヤ・フランス協会審議会のロジャー・クッキェルマン氏は破滅であると表現し批判している。イスラエルではこの書を公共の場に持ち込むことや出版は禁止されていて、金を出されても出版などできないと言っている。



パリからドイツのシュットガルトに向かう電車の中で、隣に座ったドイツ人に私(筆者)は質問した。この方はフランス語を勉強していて仏人家庭でオーペールをやったことがあるという女学生である。私が、ドイツも移民・難民で騒いでいるが、イスラム教徒の受け入れは葬式なども違うし、ユダヤ人だって簡単ではないでしょうというと、彼女はドイツには戦争(第二次世界大戦)があったので、ユダヤ人はドイツには住みたがらないのだと答えた。




【参考記事】

http://www.rtl.fr/actu/politique/pour-ou-contre-le-retour-de-mein-kampf-dans-les-librairies-7781232776
http://www.bfmtv.com/international/l-allemagne-reedite-mein-kampf-malgre-les-reticences-941942.html
http://www.20minutes.fr/monde/1761439-20160107-allemagne-mein-kampf-reedite-mieux-comprendre-folie-nazie
http://www.ifz-muenchen.de/das-institut/ueber-das-institut/unser-profil/
http://www.leparisien.fr/international/mein-kampf-d-adolf-hitler-reedite-en-alllemagne-08-01-2016-5432733.php
http://www.lemonde.fr/europe/article/2016/01/08/70-ans-apres-la-mort-d-hitler-la-reedition-contestee-de-mein-kampf-en-allemagne_4844111_3214.html