2010年12月6日月曜日

「綸言もとに戻らず」、仏大統領のロマ人排斥発言が命とりに 7日の定年年齢引き上げ法案反対デモで

フランスへ来ているロマ人はルーマニアのティミショアラ(Timisoara)の出身者が多い。6日ティミショアラ・のフランス文化会館前で仏政府の国外排斥政策に抗議するデモがった。首都ブカレストでは60人がフランス大使館前で、「止めろ、サルコジ」「排斥を止めろ」とバンドロールを掲げて抗議した。隣国のブルガリアなどでも「サルコジは落ちている」と叫びロマ人排斥に反対する抗議デモがあいついでいる。(2010/09/07)

明日7日のフランス全国で予定されている定年年齢引き上げ法案反対デモにもロマ人たちも参加すると見られる。大統領による差別を批判する抗議デモとなりそうだ。6日のヌーベル・オブセルバトワー誌やラジオFrance Infoによるとデモの人々はクロワッサンやシャンパーニュなどのフランス製品を買ってルーマニア仏大使館の前のゴミ箱に捨てたと伝えている。ロマ人の国外排斥の責任者はフランスのサルコジ大統領だと彼らはいっていると、同ラジオの特派員は伝えている。

ルーマニアやブルガリアからフランスに移住してきたロマ人や殆どがフランス国籍をもつキャラバン生活者の「旅の人々」への排斥宣言は、サルコジ大統領によってグルノーブルで7月30日に起こされたものである。

「綸言一度出(いで)て元に戻らず」という言葉があるが、これは天子の声は糸のように細くとも一度発せられるとそれが法律になり取り返しができないというものである。また同様な意味だが、「一度(ひとたび)体内から出た汗は元には戻せない」とか、「覆水盆にかえらず」というのもある。

フランスの第五共和制下の大統領の発言にはそういうところがある。人種差別の発言を撤回しようとしているようだが、いずれにせよ人の上に立つ指導者ならば慎重な言葉と思慮が必要とされるのである。

グルノーブル宣言では、ロマ人や「旅の人々」や移民の子弟など小集団の社会の周縁部で生活する人々ををフランス人とは別扱いにした人種差別の法律を作ろうとした。この人種差別の思想は止めて欲しいというのが人権擁護団体や国際社会の願いである。フランスの憲法だけでなく民主主義社会がそして万民が人権侵害を嫌うのである。この憲法を修正して人種差別をしやすくしてはならない。

人権宣言の根本の精神を再度取り返さなくてはフランスは民主国家ではなくなるという危機感がある。ラマ・ヤッド人権担当相(外務省の人権関係国家書記官)の職を廃止したのはベルナール・クシュネル仏外務大臣だ。同大臣はフランスは人権だけではやっていけないとして、人権宣言ゆかりのパリのトロカデロ広場でラマヤドさんを前に「この職は自分が創設したので自分が廃止する」と宣言してみせたのであった。

エリック・ブルト労働相が薦める政府の定年年齢引き上げ法案に反対する7日のデモは200万人級の規模が予想される。しかしそれだけでなくサンパピエ(移民不法滞在者)やロマ人などへの人権差別に抗議するデモの性格が強くなりそうだ。

このような状況を前に6日、緊急にサルコジ大統領はこのグルノーブルでの宣言に一部修正を加え、この宣言のもたらす災難を回避しようとしたようだ。しかしフランス300箇所のロマ人移民の不法テントや「旅の人々」のキャラバンなどスクオット(不法住居占拠 squat)の住居撤去方針がグルノーブルで宣言(7.30)されて、その後15日間で40箇所のキャンプが破壊され撤退されたことを鑑みると、「綸言一度出(いで)て元に戻らず」で、遅すぎたようである。ロマ人は9000人近くがことしになってからルーマニアやブルガリアに集団的に飛行機で帰されている。