外国人「即時退去」が採決、スイス国民投票に人権差別の批判
スイスで28日外国人犯罪者の国外退去の即時化法案が国民投票で採決された。これに対し欧州の価値に背くものと難民支援組織(OSAR)や人権擁護団体アムネスティ・インターナショナル、SOSラシズムなどが人種差別の進展を危険視し批判している。発議者の国民党・中道右派(UDC)では「国民が安全問題を憂慮していたことが証明された」と投票結果を評価するが、外国人と犯罪との関係を暗に強調するもの。人種差別でスイスのイメージ悪化を心配したシモネッタ・ソマルーガ連邦会議審議員(裁判と警察担当)は実施に当たっては今後のさらなる協議が必要だと警告した。
28日ソマルーガ氏は「投票採決の結果がそのまま施行されるのではない。外国人犯罪者の国外追放を推進したUDCを招いて集団協議のすり合わせが必要だ」と話し、「外国人犯罪者に関し、スイス国民は深刻な問題を抱える投票結果を出してしまった。他の国を尊重しながら、些細なことで自動的な国外排除をすべきでなく、それで途方もないことにならないよう注意したい」と発言している。
スイス26州(このうち3州は準州を持つ)でその過半数が賛成した。投票は52.9%が賛成。反対は47.1%となり、全国レベルでの賛成とあわせスイスの二重過半数制を満たしたことになった。
反対した州は基本的にはフランス語圏で、ジュュネーブ(55.7% )、ジュラ(57.3%)、フリブール(51.4%)、ボウ・エ・ヌーシャテル(56.0 %)などあった。フランス語圏で唯一反対したのはバール・ビル(56 .6 %)。ドイツ語圏で賛成に回った唯一の町はバレス(51.8%)となっている。
60%を超えて賛成したのは、UDCの強力なドイツ語圏で、ウリ(61.3%)、シュウウィズ(66.3%)、ニドワルド(60.8%)、テッサン(61.3%)であった。
スイスの「トリュビューン・ド・ジュネーブ」紙はUDCがこれまで外国人の殺人容疑者は59%もあるとしてこれを挙げてスイス国民の中に、ある種の心理的な外国人嫌いの緊張感をつくりだす牽引役を果たしてきたと批判。 フランスの「日曜新聞」(JDD.fr)は29日、UDCを極右政党として「外国人の麻薬密売や盗難、殺人者を標的にしたものだ」と指摘している。
同法案の特徴は社会保障の濫用などでも、重罪犯と同じく機械的に即時処理されて国外追放されることだという。
これを人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは「スイス人権の黒い日」と呼び、「人間の権利の侵害」であると糾弾し、「投票結果は、全くショキングなもの」で「発議者のUDCが外国人嫌いの高潮を政治的に悪用した」ものとして記者会見で批判している。
緑の党(Verts)は「スイス憲法に記載される法の前の平等を破るものだ」とし、難民支援組織(OSAR)の議長は「我々の国には多くの外国人(750万の人口の21.7%)がいるが、その人たちへの尊厳を欠いている」と呆れている。
現在、選挙結果の撤回を求めるデモがベルンやチューリッヒの町で起こっている。
(参考記事)