2015年11月17日火曜日

オランド仏大統領は ベルサイユ宮殿で、「フランス人がフランス人を殺害した」とパリ同時テロ射殺事件を総括


「日刊現代」のこの記事「 パリの悪夢の真相…勇ましい連帯で世界は“出口”なき戦争へ」(11月16日)は少し認識がズレているのではないか。11月13日夜に起きたパリの同時テロ射殺事件で、約30分後にオランド仏大統領は緊急非常事態の警報をだしたが、これをイスラム主義国家組織(IS/EI)によるものだとは断定していない。IS/EIからの犯行声明があった次の日になってからであった。11月16日のベルサイユ宮殿で衆参両議員を集めてのコングレでは、オランド大統領は一言も「イスラム」も「イスラム主義国家組織(IS/EI)」の用語も一回も口にだしてない。それどころか「フランス人がフランス人を殺害した」と述べている。このことが注目されているのです。「日刊現代」は、『「フランスは、イスラム国の攻撃に対し無慈悲な戦いを決行する」「あらゆる手段を駆使して戦う」と報復を誓った。』と言っているが、これも可笑しい。そんな「報復」のことなどをオランド大統領は言ってないのです。(パリ=飛田正夫2015/11/17 14:43日本標準時)


「日刊現代」は、元外務省国際情報局長の孫崎享氏がこう言うとして、「今回のテロは起こるべくして起こった」、「今年9月ごろ、各国の情報機関の報告でフランスでテロが起きると言われた。これにオランド大統領は空爆強化で対応したのです。それがますますIS側の攻撃決意を高めたのは間違いありません。ある日突然、テロが起きたわけではない。パリの事件は、テロを武力で封じ込めることは無理だと教えています」との発言を掲載している。これを読むと、オランド大統領がテロを武力で封じ込めるために空爆で対応したと言っているわけで、これは事実とは異なるのです。どうしてこんな強硬な論議ができるのか不思議です。まずは「各国の情報機関の報告」とやらを幾つか示す必要があるのです。重大な発言ですから。


「日刊現代」は更に孫崎享氏の意見を引用して、「軽々しく連携などと言うべきではありません」として安倍晋三首相の発言を批判している。そして「実際、それで日本人の人質が殺されたじゃないですか」と言っている。すでに忘れてはいけないのはこのパリ同時射殺事件のテロというのは神風(KAMIKAEZ)だと言われていることです。ですから、「日本はキリスト教国でもイスラム教国でもないのに、積極的にコミットしてキリスト教十字軍の一員とみなされれば、日本人の犠牲者を出すという代償を払うことになります」というのは、実は日本の神道による軍国主義の歴史というものが何であったかを全く知らない人の言になってしまうのです。


日本もまたこのテロの思想をイスラム教やキリスト教と同様に内包しているということを忘れているのです。従って、「日刊現代」が書くようにイラク戦争を主導した『戦争屋に「旭日大綬章」を贈るのが今の政府だ』と言う場合には、これはコミットしているのは日本の戦争思想の方であり、イスラム国に戦争を売っているのは日本国であるという認識になるのです。


「日刊現代」はド・ビルパン氏の発言を援用しているが、これはいろいろに日本では報道されているようだ。カットされて半分だけ報道されたり、コンテクストの説明や出演した深夜テレビ番組の説明が無かったりで国営放送のニュースだと勘違いしている人もいるようだ。様々だ。これも大事な論議なのでド・ビルパン氏のその発言資料を上げて述べるべきである。


国際ジャーナリストで早大客員教授の春名幹男氏のせいではないが、この「日刊現代」に数行引用されているのを読む読者は、まるでフランスは政治外交や交渉をやって来てないような書きぶりで、武力攻撃だけをやっているように感じさせられる。これは間違いである。


「事件直後、コラムニストの小田嶋隆氏はこうツイートしていた」と「日刊現代」は紹介しているが。もしこの方が1月初旬のチャーリーヘブド射殺事件を知っているのなら、フランス人が復讐心を持って対処などしてないことを理解するはずです。フランス人を理解するのは簡単ではないのはこういうところにも散見しているのは残念です。今回のパリ同時テロ射殺事件のテレビ報道などでもフランス人の様子を見たかと思いますが、どこでも悲しみや恐怖はありますが、復讐や怨念といったものは少ないのです。もちろん敵意を持ってイスラム教徒を悪者扱いするサルコジ前大統領のような人々もいるにはいるでしょうが、例えば極右派系国民戦線(FN)のマリーヌ・ル・ペンやその副総裁のフローリアン・フィリッポのような人でもこの種の発言は控えているのです。


そこに共和国の共有の価値があるからです。ただサルコジ前大統領のヨーロッパ文明とイスラム文明の価値の闘いだとする十字軍の戦争を彷彿させるピュィ・アン・ベレーでの発言などに行かないように、極めて慎重なフランス人の生き方はなかなか素晴らしいものがあります。


このパリでの襲撃事件は10区11区という非常に多くの人種が混ざって住んでいるパリの庶民的な場所でパリらしいところなのです。ヒダルゴパリ市長がそのことを言っている。殺害された人々も14か国の国籍に渡るということで国際的な感覚を持った生活人が住んでいる。今年1月初めにバンセーヌのユダヤ人専門商店が襲われた時もそうであったが、小田嶋隆氏の心配して書いているような「人々が怒りや復讐心」「民俗間の憎しみ」など、日本では考えられないほどないのです。それがフランスの共和国の精神なのでありフランス人なのですが、現実を見ないので理解できないのでしょう。


次の「日刊現代」の二行も非常にいい加減な感情表現であり、なにを根拠にして書かれているのか示すべきである。「パリのテロは、実行犯の一部がシリアからの難民に紛れて入ってきた可能性が高く、欧州では排他的なナショナリズムが急激に高まっている。」 これが書かれた16日の時点では、パリ同時テロ射殺事件の犯人の一人が、パスポートを必要としない筈の難民に交じって、盗んだパスポートを持ってヨーロッパ入ったシリア人がいることがわかった。3か所あるホストポットで手を押印する書類から判明した。が、「欧州では排他的なナショナリズムが急激に高まっている。」というが、この「急速に高まっている」のは、何を根拠にして書いているのかを示すべきだと思います。


最後のぺージには、国際ジャーナリストで早大客員教授の春名幹男氏の発言引用で、「こういう事件が起きれば、難民を排斥する動きが出てくるのも当然ですが、欧米による空爆で民間人の犠牲者が出ていることも事実です。その結果、大量の難民が生まれて欧州に押し寄せる。負の連鎖としか言いようがなく、フランスも出口の見えない対テロ戦争の泥沼に入り込んでしまった」と、「日刊現代」は書いています。


「欧米による空爆で民間人の犠牲者が出ていることも事実です。その結果、大量の難民が生まれて欧州に押し寄せる。」というが、この空爆はサルコジ前大統領がやったリビア空爆での難民創出のことですか?それともオランド大統領の行ったイスラム主義国家組織(IS/EI)への空爆のことですか?。というのは「その結果、大量の難民が生まれて欧州に押し寄せる。負の連鎖としか言いようがなく、フランスも出口の見えない対テロ戦争の泥沼に入り込んでしまった」と書かれているからです。これはどうでもいい問題ではないですね。どうしてこの夏に難民問題が深刻化してきたかを説明している個所なのですから。春名 幹男 氏にも答えていただきたいところです。

【参考記事】
パリの悪夢の真相…勇ましい連帯で世界は“出口”なき戦争へ