2011年2月27日日曜日

仏の「セザール賞」発表、作品賞はアルジェリアでの僧侶7人殺害、監督賞にロマン・ポランスキー、「フィクションと真実」の間で

フランス映画産業が出す2011年度の「セザール賞」が2月25日夜に発表された。発表の会場はパリのシャトレ劇場で、最優秀作品にはグザビエ・ボーボワ氏の(Xavier Beauvois)「人間と神々」、最優秀監督賞にはロマン・ポランスキーが選ばれた。参加者の全員がこれに納得したのでは勿論ない。「フィクションと真実」の間に中には腕を組み、不思議な顔をして隣の人とささやきあう者もいた。

ボーボワ氏の作品の「人間と神々」の題材は、1996年3月26日から27日の未明にかけてアルジェリアのチベリーヌ僧院で7人のフランス人僧侶が誘拐されて砂漠の中で殺害された実際にあった事件を取材したものだ。しかしこの事件はイスラム主義武装グループ(GIA)の犯行だとされていたが、アメリカの歴史家ジョン・キセー氏が、生存者の僧侶二人の記録をもとにアルジェリアの軍隊による犯行という仮説をだした。

在アルジェリアの仏大使館付きの旧軍人は7人の僧侶たちはアルジェリア政府の軍隊介入の最中に殺害されたことを証言している。

殺害された僧侶遺族のパトリック・ボードワン弁護士は僧侶7人の死亡状況からアルジェリア政府とフランス政府との間に何か隠蔽されたものが存在しているのではと懐疑していて、ジャン=ピエール・ラファラン(元仏首相)は国家機密の封印開示の必要性をはなした。

この映画が2011年に公開されると直ちにサルコジ大統領は良い映画だと評価した。事件が起きた1996年春にサルコジ氏自身が内相として現地に出かけていると「ヌーベル・オブセルバトワー誌」は書いている。

1995年~1998年にアルジェリア政府とイスラム主義武装グループとの激い戦いのあったその期間に、アルジェリアに任務についたフランソワ・ブッシュワー将軍及び厳しい生活信条を貫くキリスト教シ トー派のアルマン・ベイルー次席神父の二人の証人喚問が、フランスでは有名なカラチ仏人殺害事件の予審を担当するマルク・トルビデェック・テロリスト対策判事によってなされたことで事情が少しづつ明らかになってきていた。

7人の殺害されたトラピスト系のフランス人僧侶とは、5世紀~6世紀のイタリアのモンカッサンのサン・ブノワの教条をもとに12世紀にフランスのサン・ベルナール・ド・クレルボーがクリニー派に反対して清貧と祈の瞑想を中心とした人里はなれた閑居と手作業による労働の厳しい戒律をつくった。そのシトー派のカトリック教会の僧侶のことだ。

この映画の作品のチベリーヌ僧院は、19世紀末にアルジェリアのトラピストが建てたもので、首都アルジェからは南へ90キロほど行った椰子とオレンジの森が遠くから見える小高い丘の上にある。僧院には今は誰も住んでいない。祭式が行われることもごくまれであるという。

7人のフランス人僧侶たちはアルジェリアで市民戦争が起こっている最中に誘拐され砂漠の中で死体となって1996年5月21日に発見された。この3ヶ月間はどこかに監禁されていたと見られていて殺害の犯行をめぐり論争が続いている。

「セザール賞」の最優秀監督賞のロマン・ポランスキー氏に関しては、同氏が現在もスイスとフランス以外には自由に出入りできない身であることで、フランス映画界が賞を授けていることは米国の身柄送検要求に抗議することを意味しているのであろうか。

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