2012年2月6日月曜日

ゲアン内相の「仏文明優越」論に潜む「戦争の危険」 社会党ロワイヤル議員が批判

 5日、仏社会党(PS)のセゴレーヌ・ロワイヤル・シャラント・マリチーム地方審議会議長(2007年の大統領候補)はゲアン氏の発言は意識的にわざとなされたもので、危険なものだと指摘している。その理由は、「文明の衝撃の裏には戦争があるからだ」とセゴレーヌさんはフランス国営放送テレビ3チャンネルの番組(12/13)に招待されて発言した。「我々は戦争を欲しているのだろうか?」「我々はそうではないし、文明のショックを欲してない。我々は総ての文明に於いて誰もが同じ価値を保証されるという普遍性を欲しているのです」と発言し、「そこには共通の普遍的な、人を殺さない、周囲の人を尊厳するなどの10ほどの価値がある」として、ゲアン氏のフランス文明優越の独善性を批判している。6日朝のルモンド紙fr.が詳しく報道した。

 4日のクロード・ゲアン仏内相(前エリゼ大統領官邸書記総監)の、「他文明は価値のないもの」とするフランス文明優越論の宣言が野党各派から攻撃されて論議になっている。

 2012年度の仏大統領選挙候補のフランソワ・オランド社会党前書記長のスポークスマンであるナジャ・バロー・ベルカッセン氏は、「ゲアン氏の発言はまったくサルコジ大統領のグルノーブル発言などと一致しているものだ」と指摘して批判した。

 2010年7月末のグルノーブル宣言では、警察官を前にしてサルコジ大統領はフランス人の子弟と移民の子弟とに差別を儲け、国家公務員への移民再犯者の場合に限りフランス国籍が剥奪されることを宣言している。ベルカッセン氏は、人間に格差を儲け、人種的な低級性とキリスト教と他の宗教とに序列を設けるゲアン氏のフランスの「文明」優越論を問題にし危険性を批判している。

 2012年の仏大統領選挙候補である左派党(PG)党首ジャン・ジャック・メランション議員はGrand Jury RTL-LCI-Le Figaroに出演して、ゲアン氏の4日の発言を問題視して批判した。「イスラム教徒を軽蔑する口車のようなものである」と話し、ゲアンは10年ほど遅れていて、米政治学会会長でリベラル・保守派であったサミュエル・ハンティントンの「文明の衝撃」と呼ばれる理論を利用しての、文明の序列化をはかろうとしたもで、北米が他文明への攻撃を正当化しようとするものであった。我々はこのような思想に反対してきたし絶対にこの論理には同意はできないと批判している。

 SOSラシズムは、「ゲアン氏の発言を取り消すことを希望する」と述べている。「これはその内務大臣という職責の人間の重大な発言であり、他者を劣等化し見下す全く受け入れがたい逸脱への新たな段階の構造を示している」と記者会見して述べている。

ドミニク・ド・ビルパン共和国の連帯議長(元首相)は、 Forum Radio Jに出演して、「クロード・ゲアンは少し口を滑らした。他の時とは異なって、我々が世界を観る必要性がある今の時に、ゲアンが話した内容は、他者への怨念や蔑視に危険な糸口を与える可能性がある」と宣言している。そして、80日後を控えた「仏大統領選挙を前にした状況の中で注意すべきことだとして、誤った解釈をしてはならない」といっている。

与党政権の国民運動連合(UMP)のグザビエ・ベルトラン労相は、「皆さんは自分と同じく、後退する文明でなく進歩する文明を選択するのは明快である」と語って、ゲアン氏の話した他文明を劣等視する発言を支持する発言をしている。ただベルトラン労相はここでキリスト教文明が進歩する文明で他の文明は進歩しないと見ているようで、ゲアン氏と同じ文明の差別思想といえる。このすり替え論によるゲアン氏発言の重大性の縮小化はラジオ RCJの「Grand entretien」 で話された。

 同様にしてアラン・ジュッペ外相はゲアン氏の発言した他文明の価値の劣等性を、「政治システム」の相違に優劣があるのだと言い替えしている。

 2011年2月27日に任命になった仏防衛相ジェラール・ロンゲ氏も文化価値の相対主義には反対で、フランスを最高とする文明の進歩論に賛成なようだ。死刑や女性蔑視の尺度から他文明を批判しているものだ。しかしフランスの死刑廃止は最近のものだし、女性の家庭内虐待は今も非常に多く問題になっているものでこの点でフランスが優位だとは言い難い。

 現在のフランスの家庭内暴力は多く、いつも女性が被害者である。特にフランスの男性優位のマッチョイズムや企業内セクハラは有名だ。女性の参政権はフランスは最近に実現したものである。宗教戦争ではキリスト教徒間で虐殺があった。キリスト教は十字軍でイスラム教徒など他宗信徒の殺害を許していた。アルジェリア戦争では他民族を殺戮し、アフリカの旧植民地では奴隷を酷使し殺害してきたそういう文明なのである。

 最近の仏軍によるリビア空爆は、サルコジ大統領と哲学者のベルナール・アンリー・レヴィー(BHL)が計画したもので、多くの罪無き無辜のリビアの市民が殺害された。フランス国内でイスラム移民やイスラム教を蔑視する思想がなぜ許されるのだろうか?これが西欧の進歩だなどと思ってはならないだろう。人間は1人でも殺害してはならないし殺害を許す文明こそ許されないものだ。セゴレーヌ・ロワイヤルさんのいうように、人を殺すことを許すのは文明の価値とはいえない。

 アンリ・グゥエノ大統領官邸エリゼ宮特別諮問官は、ゲアン内相を助けて、 Canal+のDimanche+で発言した。「クロード・ゲアンは人種差別主義者ではない」と擁護した。ゲアン内相と「同じような方法が1971年のクローど・レヴィ・ストロースによってなされている」と発言した。 このグゥエノ氏のレヴィ・ストロース解釈と評価は正解だとは思えない。権威付けで読者の目を掠(かす)めるために、民俗学者の名前を持ち出したのだ。グゥエノ氏は、「私は個人的には、文明の価値に他の文明との序列があるのを好む」と話していてゲアン内相の発言を支持しているのである。

 サルコジ大統領から移民と同化(Ofii)の国家局長に2011年9月に任命されたアルノー・クラスフェルド氏は、「ゲアンの話したことは明白で」、「男性が女性を蹂躙する文明を好まない」「宗教的自由を尊厳する文明を好む」などと発言している。明らかに彼らには文明に好き嫌いがあるようで文明に価値の絶対性を観ていることが問題なのだろう。そしてそれを体現しているのが我々なのだという優越思想である。