22日、フランス北部のカトリック教会の司教がサルコジ大統領のロマ人排除政策に抗議して同大統領の心臓発作を祈願していたことが話題になっている。司教はリール地方の教会のロマ人擁護を推進するアルチュール・エルベ師だ。日曜日のミサで50人ほどの信徒を前にニコラ・サルコジが心臓発作に見舞われることを祈願したという。その数時間後に司教はこの言葉を後悔して次のように語っている。「私は彼の死を望んでいるわけではない。私は単に神が彼の心に語ることを望んでいただけである」と語った。サルコジ大統領の人種差別の危険な政策を止めさせようとした司教の心境だ。22日の夜に国営放送6チャンネルなどが伝えた。同司教はフランス政府のロマ人排斥に驚いていることを宣言していた。同司教は4年前に少数派民族抑圧に抗議したことで勲章をうけたが、現政府のロマ人排斥政策は受け入れられないとしてブリス・オルトフゥ法務大臣に勲章を返した。サルコジ大統領の世論調査での人気は依然として低迷(34%~36%)している。サルコジ大統領のこの8月の移民排除政策で得点した世論調査のポイントはたったの2点だ。しかもそれは、ロマ人排除を喜ぶ極右フロンナショナルのル・ペン支持者からの7ポイントの獲得であった。驚くべき恐怖の人種差別政策の結果であった。(本文の初出 /2010年8月23日 @ 9:40 )
南仏エックス・アン・プロバンスとアルル地方の大司教クリストフ・デュフー師は19日、フランス政府のロマ人撤退政策に対し人間の尊厳が不足しているとしてフランス政府の安全政策は受け入れられないものだとして批判した。不幸な人々を見過ごしている政府の宣言を批判している。ロマ人はヨーロッパの市民でありその多くは平穏に長年にわたって暮らしてきたものを排斥すべきではないとしている。
ローマ法王ベネディクト16世は22日にフランス人の巡礼者に向けてフランス語で話した中で、総ての国の人が分け隔てなく救われるのであって、様々な人々が対象になっていることを知るべきだとし、また、あなた方フランス人の子供たちに平等な博愛の教育を呼びかけた。
また、20日にはフランスに於ける「ロム」人の排除がヨーロッパ次元での基準に抵触しているとして「旅の人々」と移民に関するバチカンのローマ教皇の諮問書記官アゴステーノ・マルチェット枢機卿が、フランス通信(AFP)に宣言している。一般化は避けるべきで集団の総ての人々を(一律的に)排除することはすべきではないとしている。それは(犯罪の)責任が集団的なものではないからだと同師は強調して言う。フランスの市町村で住民が5000人を超える場合には「旅の人々」などを受け入れる場所を考慮しなければならない法律があるが、フランスはこれを尊守しなければならないとも話した。
19日から始まった「ロマ」人のフランス国外排除政策は、7月30日のサルコジ大統領によるグルノーブルでの安全対策宣言の標的が移民にあてられていて、その指令がブリス・オルトフゥ(内務大臣)によって実行されたものである。当初は政府はルーマニアのロマ人とフランス国籍をもつ「旅の人々」とを同一視していたと見られる。そのために「旅の人々」の方からもロマ人と自分達をいっしょにするなとの批判が起こっている。どちらも人種差別の政策だと国際社会やカトリック教会からも厳しい批判が起こっている。国連や米国のニューヨーク・タイムズ紙では「反移民感情を扇動する危険なもの」であると非難された。
18日フランスのエリック・ベッソン移民大臣は「ロム」139人をパリからの飛行機で追放するとしていた。9日にフランスからルーマニア西部のチミソアラ(Timisoara)の飛行場には、124人が到着した。ブルガリアのソフィアには13名がフランス東部から第一陣として返された。チミソアラからの移民が大多数で彼らはまたフランスに戻ってくると怒って帰っていった。ベッソン移民大臣によると8月末までに約850人を追放することになるという。
ロマ(Romsフランス語読みではロムである)人は中世ごろにインド北部からルーマニアやブルガリアに移動してきた。ルーマニアのニコラエ・チャウシェスクの時代に定住化が計られたが教育を受けないために社会のかたはしでの生活を余儀なくされてきたという。ルーマニアなどがヨーロッパに統合されて彼等が自由に移動できるようになったが、サルコジ大統領のグルノーブル宣言がフランス社会の犯罪の元凶が移民にあるとしたことで、戦争状態が出現している。「旅の人々」(les gens de voyages)というのはフランスのヴィクトル・ユゴーの作品などにも見られる古くからの伝統的な旅をする職業を持つ人たちでほとんどがフランス国籍をもっている。最近のボルドーのアキテーヌ橋を占拠して抗議したのはロマ人だとの日本の新聞報道があるようだが、これはそうではなくて「旅の人々」、フランス人である。(本文の初出 / 2010年8月23日 @ 9:40 )
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